航空宇宙の設計技術を体系的に理解する|構造設計・空力設計・材料選定・MBSEの最新動向を技術士が解説

航空宇宙の設計技術を体系的に理解する

【はじめに】
航空宇宙設計は、航空機・ロケット・人工衛星などの高度なシステムを構築するための重要な技術領域です。これらの機体は極限環境で運用されるため、軽量化・安全性・信頼性・耐環境性など、多くの要件を満たす必要があります。近年は、複雑化する航空宇宙システムに対応するため、システムズエンジニアリングやMBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)が設計プロセスの中心となりつつあります。これらの手法は、要求分析から設計・検証までを一貫してモデルで管理し、品質と効率を大幅に向上させます。技術士として活動する場合も、航空宇宙設計とMBSEの考え方を理解することは、企業の技術開発や品質向上に大きく貢献します。本記事では、航空宇宙設計の特徴、システムズエンジニアリング、MBSEの活用方法、そして実務で使える具体的な手順を体系的に解説します。

出典:我が国航空産業の今後の方向性とDXへの期待
「航空宇宙事業のDX化イメージ」
経済産業省 製造産業局航空機武器宇宙産業課

【結論】
航空宇宙設計の本質は「安全性・信頼性・軽量化を両立し、複雑なシステムを最適に統合すること」です。その実現には、①要求分析、②システムズエンジニアリング、③MBSE活用、④安全性評価、⑤検証プロセスの5つを体系的に進めることが重要です。これにより、航空宇宙機器に求められる高い品質と性能を確実に実現できます。

【理由・背景】
航空宇宙設計が難しい理由には、以下のような背景があります。
・極限環境(高温・低温・真空・振動)での運用が前提
・安全性が最優先であり、故障が許されない
・軽量化と強度確保の両立が必要
・複雑なシステム統合が求められる
・国際規格(DO-160、MIL規格など)への適合が必須
さらに、航空宇宙システムは数千〜数万点の部品と複数のサブシステムで構成されるため、従来の文書ベースの設計では限界が生じています。この課題を解決するために、システムズエンジニアリングとMBSEが導入され、要求・設計・検証をモデルで一元管理するアプローチが主流となっています。だからこそ、航空宇宙設計では、技術力だけでなく、システム思考・品質管理・リスク管理を含めた総合的なアプローチが重要です。

【具体的な方法・手順】

1.要求仕様を整理する
航空宇宙設計は要求仕様の理解から始まります。
・ミッション要求
・性能要求
・安全要求
・環境要求(温度、振動、放射線)
MBSEでは要求をモデル化し、設計とのトレーサビリティを確保します。
⇒要求整理が設計の出発点となる。

2.システムズエンジニアリングのプロセスを適用する
航空宇宙設計ではシステムズエンジニアリングが不可欠です。
・要求分析
・機能分解
・アーキテクチャ設計
・検証計画
システム全体を俯瞰し、最適な構造を設計できます。
⇒システムズエンジニアリングが全体最適を支える。

出典:我が国航空産業の今後の方向性とDXへの期待
「航空宇宙事業の開発プロセス」
経済産業省 製造産業局航空機武器宇宙産業課

3.MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)を導入する
MBSEは文書ではなくモデルで設計を管理する手法です。
・SysMLによるモデル化
・要求・機能・構造の一元管理
・設計変更の影響分析
・シミュレーションによる検証
MBSEにより、複雑な航空宇宙システムの整合性が向上します。
⇒MBSEが設計品質と効率を高める。

出典:航空機開発プロセスの革新に向けたMBSE適用について
「航空機ライフサイクルDX」
JAXA航空シンポジウム2021特別講演 三菱航空機株式会社 MBSE Project

4.システムアーキテクチャを構築する
航空宇宙機器は複雑なシステムで構成されます。
・推進系
・電源系
・通信系
・制御系
アーキテクチャをモデル化することで、サブシステム間の整合性が確保されます。
⇒アーキテクチャ構築が設計の骨格をつくる。

5.構造設計を行う
構造設計は軽量化と強度確保の両立が重要です。
・有限要素法(FEA)
・荷重条件の設定
・安全率の検討
MBSEと連携することで、構造設計の変更がシステム全体に反映されます。
⇒構造設計が信頼性を支える。

出典:飛行の航空力学
「典型的なVg図」
国土交通省

6.材料選定を行う
航空宇宙分野では材料選定が性能を左右します。
・アルミ合金
・チタン合金
・CFRP(炭素繊維複合材)
・耐熱材料
材料特性をモデルに組み込むことで、設計の精度が向上します。
⇒材料選定が性能向上の鍵となる。

7.熱設計を行う
航空宇宙機器は温度変化が激しい環境で運用されます。
・熱伝導
・放射冷却
・断熱材の選定
熱モデルを構築することで、温度変化の影響を事前に評価できます。
⇒熱設計が耐環境性を高める。

出典:我が国におけるロケット開発・技術実証に関する現在の取組(と今後の方向性の考え方)
「次期基幹ロケットに関する技術成熟度の検証方法」
宇宙航空研究開発機構

8.電源・電子機器の設計を行う
航空宇宙機器は電源の安定性が重要です。
・電源冗長化
・ノイズ対策
・放射線耐性
電子機器のモデル化により、システム全体の信頼性が向上します。
⇒電源設計がシステム安定性を支える。

9.制御系設計を行う
航空宇宙機器の姿勢制御や軌道制御を担います。
・センサー選定
・制御アルゴリズム
・冗長系の構築
制御モデルを用いることで、飛行の安定性を事前に検証できます。
⇒制御設計が運用の安全性を高める。

10.安全性評価を行う
航空宇宙設計では安全性が最優先です。
・FMEA
・FTA
・リスクアセスメント
MBSEではリスク情報もモデルに統合し、影響範囲を可視化できます。
⇒安全性評価が事故防止を支える。

11.試験計画を策定する
設計の妥当性を確認するための試験が必要です。
・環境試験(振動、衝撃、温度)
・機能試験
・統合試験
試験要件をモデルと連携させることで、検証漏れを防げます。
⇒試験計画が品質保証の基盤となる。

12.設計レビューと量産設計を行う
最終的に量産に適した設計へと仕上げます。
・DR、PDR、CDR
・製造性の検討
・コスト最適化
MBSEにより、レビュー時の情報共有が効率化されます。
⇒レビューと量産設計が事業化を支える。

【まとめ】
航空宇宙設計は、安全性・信頼性・軽量化を両立させる高度な技術領域です。要求分析、システムズエンジニアリング、MBSE、構造設計、安全性評価の5つを軸に体系的に進めることで、高品質な航空宇宙機器を設計できます。技術士としての視点を持ち、論理的かつ計画的に航空宇宙設計を進めることで、企業の技術力向上と航空宇宙産業の発展に貢献できます。

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【参考文献】
飛行の航空力学
JAXA我が国におけるロケット開発・技術実証に関する現在の取組
我が国航空産業の今後の方向性とDXへの期待
航空機開発プロセスの革新に向けたMBSE適用について

航空宇宙ビジネス
PE Qishi

G! SRC所長
• 技術士(航空・宇宙部門/機械部門/総合技術監理部門)
• APECエンジニア(Mechanical)/IPEA国際エンジニア
• 認定DXアドバイザー(スペシャリスト)/GDXアドバイザー
• デジタル推進委員
★活動内容:人と社会と環境のWell-Beingを目指して活動しています。
☆主な経歴・業歴:https://researchmap.jp/kishi_kimihiro

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